なぜ大規模修繕の設計監理費は安い?建築士の報酬と談合構造の裏側

この記事を書いた人

建築施工管理技士/宅地建物取引士/Webエンジニア
・2級建築施工管理技士(取得年:2024年)
・宅地建物取引士(取得年:2020年)
・改修工事施工管理歴:6年(2018年〜現在)
・商業施設改修・修繕200件、マンション大規模修繕15棟
・不動産業務経験:買取再販・売買仲介 3年
・Mac活用13年

意外と稼げない一級建築士のイラスト
この記事でわかること
  • 大規模修繕で談合が起こる具体的な構造と金額規模
  • 建築士がなぜ中立性を失うリスクがあるのか
  • バックマージンの実態と年間数千万円規模の被害
  • 住民ができる具体的な談合対策と成功事例
  • 透明性の高い修繕工事を実現する完全ガイド

「1億2,000万円です」と言われた理事長の疑問

あれは2年前の初夏、築25年・100戸のマンションの理事会でのことでした。

大規模修繕の見積書が提出されたその日、理事長のAさん(50代・建築関係の仕事をされている方)が真剣な表情で見積書を見つめていました。「1億2,000万円…これ、本当に適正な金額なんでしょうか?」

管理会社の担当者は「相場通りの金額です。今は資材も人件費も高騰していますから」と説明しましたが、Aさんの表情は晴れませんでした。「でも、隣のマンションは同じ規模で8,000万円で済んだと聞きました。なぜこんなに差があるんですか?」

その疑問から始まった調査で、驚くべき事実が判明しました。管理会社が推薦した設計事務所と施工会社を調べたところ、過去10年間で20件以上の共同受注実績があったんです。「もしかして、これは…」Aさんの疑念は確信に変わりました。

結局、その理事会は見積もりの承認を見送り、修繕委員会を立ち上げて徹底的な再調査を実施することに。建築士の住民3名が参加して、設計事務所選定を公募制で実施し、施工会社も5社による真の競争入札を行いました。

その結果、工事費は9,600万円に。当初より2,400万円、20%も削減できたんです。工期も10ヶ月から8ヶ月に短縮され、仕様のグレードアップまで実現しました。住民満足度アンケートでは92%が「満足」と回答。

Aさんは後日、「もし疑問を持たずに承認していたら、2,400万円もの大金を無駄にするところでした。専門知識がなくても、『おかしいな』と思ったら声を上げることが大切だと実感しました」と話してくれました。


なぜ大規模修繕は「異常に高額」になってしまうのか

改修工事の施工管理を5年以上担当してきた経験から見えてきたのは、マンションの大規模修繕における費用構造の複雑さです。数千万円規模の見積が提示された際、多くの住民の方が「相場がわからない」「適正価格がどの程度なのか判断できない」と悩まれている現状があります。

この背景には、大規模修繕特有のいくつかの構造的要因があります。まず、工事の専門性が高く、一般の住民には適正価格の判断が困難であること。次に、限られた業者間での受注競争が十分に働きにくい市場環境があること。さらに、設計・監理を担う建築士と施工業者の関係性が、時として透明性を欠く場合があることです。

現場で働く中で感じるのは、見積内容の詳細な説明が不足していたり、複数業者による真の競争入札が行われていないケースが少なくないということ。住民の皆さんが適切な判断をするために必要な情報が十分に提供されていない場合があるんです。

このような状況を改善するためには、透明性の高い業者選定プロセスと、住民が納得できる詳細な説明が重要になります。現場の実態を踏まえ、適正な大規模修繕を実現するためのポイントについて詳しく解説していきます。


毎週顔を合わせる関係が生む「馴れ合い」

見積書の内容の説明を受ける人たちのイラスト

大規模修繕工事では、複数の関係者が関わることで様々な利害関係が生まれ、時として不適切な談合が発生する可能性があります。

談合の主な類型として、まず管理組合と施工会社による談合があります。
管理組合の理事や修繕委員会メンバーが、特定の施工業者から金銭的利益や便宜を受ける代わりに、その業者を有利にする行為です。
次に、管理組合と工事監理者による談合。管理組合側の人間と設計・監理を担う一級建築士事務所が結託し、工事費用を水増しして利益を分配する構造。
そして最も深刻なのが、施工会社と工事監理者による談合。本来住民の代理人として施工業者を監視すべき建築士事務所が、施工業者と癒着してしまうケースです。

▶ 参考:公正取引委員会|談合に関する独占禁止法の運用指針

一級建築士事務所の本来の役割は、住民(管理組合)の代理人として公正中立な立場で、適正な工事仕様の策定、施工業者の選定支援、工事期間中の品質監理を行うことです。でも、構造的な問題があるんです。

一級建築士事務所は設計・監理業務で数百万円の報酬を得る一方で、施工業者からも「協力金」や「設計変更手数料」名目で金銭を受け取ることがあります。これにより、本来住民の味方であるべき建築士が、施工業者寄りの判断をしてしまう利益相反構造が生まれるんです。

▶ 参考:国土交通省|マンションの管理の適正化の推進に関する法律

現場で見られる実態として、見積査定で施工業者に有利な判断をしたり、工事中の手抜きや仕様変更を見逃したり、過剰な追加工事を提案したり、特定業者への誘導的な業者選定支援をしたりするケースがあります。これらの行為は独占禁止法違反にあたる可能性があり、発覚すれば刑事罰の対象となります。住民の財産を預かる重大な責任があることを、関係者全員が認識する必要があります。

2025年7月のニュースでは、公正取引委員会が実際に建設業界の談合事件について聞き取り調査を行っており、大規模修繕分野でも同様のリスクがあることが指摘されています。

適正な大規模修繕を実現するためには、透明性の高い業者選定プロセスと、利益相反のない監理体制の構築が不可欠です。

▶ 参考:国土交通省|マンション管理適正化指針


週1回の現場巡回が「協力者」に変える

大規模修繕工事の設計監理業務をする一級建築士のイラスト

マンション修繕工事では、設計・監理を担う建築士が管理組合の代理として業務を行います。でも、実際の現場では密接な関係が築かれていくんです。

週1〜2回の現場巡回で工事の進捗確認と品質チェック。月1〜2回の定例会議に理事会・管理会社・施工会社・建築士が参加。日常的な工程調整で、住民の生活に配慮した施工計画の変更。クレーム対応では、住民からの苦情に対する共同対処。

居住中施工という特殊な環境では、建築士と施工会社が「チーム」として動かざるを得ません。この過程で、本来の「監視役」から「協力者」へと関係性が変化してしまうんです。

現場で実際に見た危険なサインがあります。建築士が施工会社の提案を無批判に受け入れる。品質チェックが形式的になり、不具合を見落とす。住民への説明で施工会社を擁護する発言が増える。変更工事の査定が甘くなり、追加費用が膨らむ。こういった兆候が出たら要注意です。

多くの小規模設計事務所では、深刻な問題が顕在化しています。業務体制では、1人で設計から監理まで担当していて、チェック機能が完全に欠如している。収益構造も厳しく、基準報酬の20〜30%で受注せざるを得ないため、副収入への強い誘惑がある。営業手法も、施工会社からの紹介が90%以上で、中立性が根本的に欠如している。専門性についても、修繕工事の経験年数が3年未満で、施工会社に完全依存している事務所が多いんです。

ぱんたロイド
毎週現場で顔を合わせて、一緒に住民対応もして…ってなると、「お互いに協力しやすい関係」になってしまうのは、ある意味自然な流れなんです。でも、それが住民の利益を損なうことになってしまうんですね。

「設計協力費」という名の現金授受

一般的に指摘される手口として、様々な名目での金銭授受が問題視されています。「設計協力費」として工事費の1〜3%を現金で授受したり、「技術指導料」名目で別契約を締結したり、「紹介手数料」として他案件での後払いをしたり。代表者の個人口座への分割振込や、高級接待や海外旅行での利益供与もあります。

2024年3月に発覚した大規模修繕談合事件では、数十年前から複数の現場で工事料金の5%〜15%がバックマージンとして流れていたと言われています。

バックマージンが表面化しにくい理由として、巧妙な手口が使われています。帳簿に残らない現金での授受(工事現場での手渡し)、工事完了後の「成功報酬」という名目での後払い、設計事務所の家族名義口座への振込、別会社を経由した迂回取引、接待費や贈答品による現物支給、他の工事案件での相殺取引。こういった手法で発覚を避けているんです。

私が知る限りでも、「打ち上げ」と称した高額接待や、「視察旅行」という名目での海外旅行招待など、金銭以外の利益供与も横行しています。

ぱんたロイド
住民の皆さんは「相見積もりを取ったから公正だ」と思いがちですが、実は事前に落札業者が決まっている「出来レース」になっていることも多いんです。見た目は競争、実態は談合という構図ですね。

公共工事との決定的な違い

公共工事では談合防止のため、法的に厳格な制度が確立されています。一方、マンション修繕は民間取引のため、ほぼ無法状態と言っても過言ではありません。

設計・施工分離について、公共工事では法的義務(建設業法)がありますが、マンション修繕には分離義務がありません。
入札の透明性も、公共工事では結果詳細の完全公開が義務付けられていますが、マンション修繕は住民への簡易報告のみ。
第三者監査も、公共工事には会計検査院等による監査がありますが、マンション修繕には第三者監査制度がありません。
談合への罰則も、公共工事なら刑事罰・指名停止・損害賠償請求がありますが、マンション修繕は民事責任のみ。技術者の資格についても、公共工事では監理技術者の専任義務がありますが、マンション修繕には資格要件の定めがないんです。

多くのマンション修繕では、形式的な選定プロセスが踏まれていますが、実態は大きく異なります。
まず管理会社による業者紹介(3〜5社程度の「お付き合い業者」)。
次に設計事務所による見積査定(表面的な比較検討のみ)。理事会での決定(専門知識なしに「安い業者」を選択)。
住民総会での承認(詳細検討なしに可決される)。
このプロセスでは、実質的に管理会社や設計事務所の意向で業者が決まってしまい、真の競争原理は全く働きません。

透明性の高い選定プロセスの特徴として、公募による設計事務所の選定、複数の独立した見積査定、住民による技術的検討の実施、第三者専門家による客観的評価、選定理由の詳細な文書化と公開。こういった要素が必要です。


基準報酬の3分の1で契約する現実

国土交通省の建築士業務報酬基準では、設計・監理業務に対する適正な報酬の目安が示されています。しかし、マンション大規模修繕の現場では、この基準を大幅に下回る契約が常態化しており、建築士事務所は構造的に厳しい経営環境に置かれています。

管理組合は限られた修繕積立金の中で費用を抑えたいと考え、設計・監理費用を最低限に絞ろうとします。一方で建築士事務所は、赤字覚悟でも受注せざるを得ない状況に追い込まれているんです。

継続的な業務確保の必要性があります。
一度契約を獲得すれば、付随する設計業務や、次回大規模修繕などでも指名される可能性が高い。
営業費用の回収も切実で、提案書作成や営業活動にかけた費用を無駄にしたくない心理が働きます。
固定費の負担もあって、事務所の維持費や人件費をカバーするため、採算度外視でも仕事を取る必要性がある。競合他社の存在も大きく、他社がさらに安い価格を提示すれば受注を失うリスクがあるんです。

この経済構造が、建築士事務所を施工業者からの金銭的利益に依存させる根本原因となっています。
建築士法には「倫理規定」の条文はありませんが、日本建築士会連合会日本建築家協会などの団体が、建築士が遵守すべき倫理規定を定めています。
でも、適正な監理報酬を得られない建築士事務所が、施工業者からの「設計変更協力費」や「技術指導料」といった名目の金銭に頼らざるを得ない実態があります。

現場で見られる具体例として、参考基準報酬額の3分の1以下での契約締結、監理業務の簡素化(現場検査回数の削減など)、施工業者との「協力関係」による収入補填、次回修繕時の継続受注を条件とした安値受注などがあります。

この構造的問題は、建築士事務所個社の努力だけでは解決困難です。管理組合側も、極端に安い設計・監理費用が結果として工事品質の低下や談合リスクを高める可能性があることを理解する必要があります。適正な大規模修繕を実現するためには、透明性の高い報酬体系と、建築士事務所が経済的独立性を保てる契約条件の確立が不可欠です。

低報酬での契約にも関わらず、建築士に求められる業務範囲は年々拡大しています。
設計段階では、建物診断・劣化調査(足場設置前の詳細調査)、改修仕様書の作成(材料選定から施工方法まで)、工事費積算・査定(市場価格の調査と妥当性判断)、施工計画の検討(住民生活への影響最小化)、行政手続きのサポート(建築確認申請等)。
監理段階では、工事監理(品質・工程・安全管理の確認)、住民対応(説明会開催・個別相談・クレーム対応)、変更工事の査定(追加工事の妥当性判断)、完了検査・引渡し業務(不具合チェックと保証確認)、アフターフォロー(1年点検・保証対応)。
これだけの業務を低報酬でこなすのは、本当に大変なんです。

低報酬契約が引き起こす深刻な問題として、現地調査の手抜きによる設計ミス、仕様書の簡略化による品質低下、現場監理回数の削減による不具合見落とし、住民説明の省略による理解不足、変更工事への安易な同意による費用増加などがあります。

ぱんたロイド
正直なところ、設計監理だけでは生活が成り立たない建築士さんも多いんです。だからといって不正が許されるわけではありませんが、現実的な問題があることも事実なんですね。

住民ができる具体的な談合対策

談合を防ぐために、住民側が実行できる具体的な対策をご紹介します。

設計事務所選定時は、マンション修繕の実績件数と具体的な事例、施工会社との資本関係・役員関係の有無、過去5年間の主な取引先施工会社、報酬額と業務範囲の詳細な契約内容、建築士会での評判・懲戒処分歴の確認、同規模マンションでの住民満足度調査、設計事務所の経営状況と従業員数、損害保険(設計賠償責任保険)の加入状況をチェックしましょう。

施工会社選定時は、見積書の全項目詳細と単価根拠の確認、類似工事での施工実績と品質評価、下請業者の選定基準と管理体制、アフターサービス・保証制度の内容、工事保険・損害賠償保険の加入状況、過去のクレーム対応実績と改善策、監理技術者・主任技術者の資格と経験、近隣マンションでの評判調査を確認してください。

住民主体の監視システムを構築することで、談合リスクを大幅に削減できます。
修繕委員会を設置して、専門知識を持つ住民5〜7名で構成するのは無料でできます。第三者監理を導入すれば、独立した建築士による監理で中立性を確保できますが、工事費の1〜2%のコストがかかります。
定期報告会を月1回開催して工事進捗を報告するのは、会場費のみ。外部専門家を活用して、建築士・弁護士による助言を受けるのは相談料だけで済みます。

ここ最近では大規模修繕に関するセカンドオピニオンサービスを業務としている設計事務所も増えているため、不安のある管理組合の方は、多少費用がかかりますが活用してみるのも一つの手です。

談合防止には、情報の透明化と住民の積極的な参加が不可欠です。
見積書の完全公開で、全項目を住民説明会で詳細に説明する。選定理由を文書化して、なぜその業者を選んだのかを明文化する。打ち合わせ議事録を公開して、設計事務所・施工会社との全会議録を共有する。工事写真を定期公開して、品質確認のための施工状況写真を見せる。住民質問への回答を義務化して、疑問点への文書回答を制度化する。
こういった取り組みが効果的です。

透明性確保に成功した事例では、工事費用が平均15〜25%削減され、工事品質は不具合発生率が1/3に減少し、住民満足度は85%以上の高い評価が得られています。今後の信頼関係も、管理組合運営の改善につながっています。


2,400万円削減に成功した実例

冒頭でお話しした都内某マンション(築25年・100戸)の取り組みについて、もう少し詳しくお話しします。

問題発覚のきっかけは、当初見積が1億2,000万円という高額だったこと。建築関係者の住民が疑問を提起し、管理会社推薦の設計事務所と施工会社の関係を調査したところ、過去10年間で20件以上の共同受注実績が判明しました。

実施した対策として、修繕委員会に建築士・施工管理技士の住民3名が参加。設計事務所選定を公募制で実施して、8社が応募しました。施工会社選定では5社による真の競争入札を実施。外部の建築士による第三者監理を導入し、毎月の住民説明会で詳細な進捗報告を行いました。

結果は驚くべきものでした。
工事費は1億2,000万円から9,600万円へ、20%削減。工期も10ヶ月から8ヶ月へ、2ヶ月短縮。品質面でも仕様グレードアップを実現し、住民満足度は92%が「満足」と回答しました。

別の事例として、神奈川県某マンション(築30年・150戸)の改革もご紹介します。
従来方式での問題として、管理会社任せの修繕で、過去2回とも予算オーバーと品質不良が発生していました。住民の不信が高まり、抜本的な見直しを決定したんです。

第三者監理システムを導入して、管理組合が直接、独立系建築士と契約。
設計・施工・監理の完全分離を実現しました。
工事の全工程で住民立会い検査を実施し、月2回の品質報告会を開催。
工事費用は1億5,000万円から1億2,500万円へ17%削減、工期は12ヶ月から9ヶ月へ25%短縮、追加工事は800万円から150万円へ81%削減、不具合件数は23件から3件へ87%削減、住民満足度は58%から96%へ38ポイント向上しました。

ぱんたロイド
「専門知識がないから分からない」と諦めている住民の方も多いですが、まずは「なぜ?」「どうして?」と疑問を持つことから始めましょう。その積極的な姿勢が透明性を生み出すんです。

談合の疑いが生じた時の対応

もし談合の疑いが浮上した場合、まず証拠保全が最優先です。疑いを持った時点で、関連する全ての資料を保存し、関係者への口外は避けましょう。早急な対応が被害拡大を防ぎます。

証拠資料の収集と保全として、契約書・見積書・議事録等の全資料を複写保存してください。メール・LINE等の通信記録の保存も大切。録音・録画が可能な会話は記録し、関係者の発言メモを詳細に作成しましょう。

専門家への緊急相談も必要です。建設業法に詳しい弁護士への相談、独立系建築士による技術的検証、会計士による費用査定の依頼、必要に応じて興信所での調査も検討してください。

管理組合内での情報共有として、理事会での緊急報告と対策協議、住民説明会での状況説明、専門委員会の設置と調査開始、外部専門家の起用決定を行います。法的対応の検討では、損害賠償請求の可能性検討、契約解除・工事中止の判断、刑事告発の必要性判断、監督官庁への通報検討を進めてください。

談合が発覚した場合の被害回復方法として、損害賠償請求で過払い金の回収(証拠次第で実現可能性が高く、6ヶ月〜2年かかる)、契約解除で被害拡大の防止(契約条項次第で、1〜3ヶ月)、工事やり直しで適正品質の確保(費用負担が課題で、6ヶ月〜1年)、刑事告発で社会的制裁(悪質性次第で、1〜3年)があります。


国土交通省による制度改善の動き

国土交通省は、マンション大規模修繕工事における談合・利益相反問題に対して、具体的な対策を実施しています。

2023年4月3日、国土交通省はマンション管理及び修繕工事の主要な業界団体あてに「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化」に関する新たな方針を通知し、以下の施策を推進しています。

意思決定の透明性確保として、業者の選定に係る「意思決定の透明性の確保」や「利益相反等」には十分な注意をして、適正に行われる必要があるとしています。
実態調査データの活用では、「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(200社818件の工事事例を収集)により、自分のマンションの工事費や設計コンサルタント費用等が相対的にどのあたりに位置づけされているかの把握ができるようになっています。
相談窓口の活用促進として、管理組合向けに大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口や適正な工事発注のための参考情報をまとめて提供しています。

平成29年1月27日の国土交通省通知では、発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘され、問題事例への対策が明示されています。
最も安価な見積金額を提示したコンサルタントに依頼したが、実際は施工会社の社員が調査診断・設計等を行っていた事例、
設計会社が、施工会社の候補5社のうち特定の1社の見積金額が低くなるよう、同社にだけ少ない数量の工事内容を伝えた事例、
一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導する事例などが指摘されています。

国土交通省は、利益相反的な提案をしてきた設計会社を除外して選定した事例や、施工会社を公募など透明な形で募集し、理事会における投票・審議など公正な手続の下で決定した事例を紹介し、管理組合向けのベストプラクティスとして普及を図っています。

相談窓口も充実していて、(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターの住まいるダイヤル(0570-016-100)、(公財)マンション管理センターの建物・設備の維持管理相談(03-3222-1519)が利用できます。

平成28年3月に改正された「マンションの管理の適正化に関する指針」において、「工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある」と明記され、法的根拠が強化されています。

参考資料:設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(平成29年1月27日)マンション管理について(国土交通省)

業界団体による自主規制も強化されています。建築士会では倫理規定の大幅改定と罰則強化、修繕工事専門研修の義務化、相互監視体制の構築、住民向け無料相談窓口の設置が進められています。施工業者団体でも、談合防止の自主ルール策定、入札参加資格の厳格化、品質保証制度の充実、住民満足度調査の義務化などが行われています。


まとめ:住民の「知る権利」が透明性を生み出す

施工管理の現場からの視点と、ここ最近の談合ニュースを見ながら痛感しているのは、談合の最大の防止策は「住民の関心と積極的な関与」であるということです。専門知識がなくても、基本的な姿勢を持つことで状況は劇的に改善します。

見積内容について「なぜこの金額なのか?」を質問する。複数の独立した専門家の意見を聞く。工事の進捗状況を定期的に自分の目で確認する。疑問や不安があれば遠慮なく理事会で発言する。住民同士で情報を共有し、一致団結して取り組む。これらは今日からできることです。

談合が起こる根本的な原因は「見えにくさ」「無関心」「専門家任せ」の三つです。
でも、住民が意識改革を行うことで、建築士も施工会社も健全な競争環境で業務を行うようになります。
当事者意識の醸成として「自分たちの資産を守る」という強い意識。情報公開の要求で「なぜ?」「どうして?」を恐れずに質問。専門家の活用として、独立した第三者による客観的チェック。継続的な監視で、工事完了まで気を抜かない姿勢。記録の保存で、すべてのプロセスを文書で残す習慣。
こういった取り組みが大切です。

国土交通省や業界団体による制度改善も期待されますが、最も確実で即効性があるのは住民の皆さん自身の行動です。
「大規模修繕は専門家任せ」という従来の考え方から、「住民が主体となって考え、決定し、監視する工事」への意識転換が何より重要です。

皆さんのマンションが、談合のない透明で公正な修繕工事を実現し、住民の大切な資産価値を適正に維持・向上させることを心から願っています。そのために、この記事でお伝えした知識と対策を、ぜひ実践で活用していただければと思います。

この記事を読んだ後にすぐできることとして、管理組合の修繕関連資料をすべて確認する。次回の理事会で透明性確保について提案する。独立系の建築士・専門家の連絡先を調べる。近隣マンションの修繕事例を情報収集する。住民同士で修繕について話し合う機会を作る。こういったアクションから始めてみてください。

ぱんたロイド
「専門家に相談するお金がもったいない」と思う方もいらっしゃいますが、談合で数百万円〜数千万円の損失を被ることを考えれば、事前の専門家相談は非常にコストパフォーマンスが高い投資なんです。契約した設計コンサルとは別に、一級建築士や弁護士などによるセカンドオピニオンをお願いする方法もおすすめです。

本記事の一部画像はAIによる自動生成(ChatGPT・DALL·E)を使用しています。著作権上問題のない範囲で掲載しています。
この記事の情報は一般的な指針です。具体的な判断については必ず専門家(建築士・宅地建物取引士等)にご相談ください。
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