2025年の建設工事が遅れる理由とは?職人不足と資材高騰の影響

2025年、建設現場では「工事の開始が予定より2ヶ月以上遅れた」といった声が後を絶ちません。
一見すると職人不足や資材高騰が原因のように見えますが、実際にはそれだけではなく、構造的な業界の問題や談合問題、管理体制の限界も深く関係しています。
私自身も改修工事施工管理として現場に携わる中で、職人不足と業界全体の混乱を肌で感じています。特に2024年後半から続く談合問題の影響で、業界の構造そのものが大きく変化している状況です。
• 2025年建設業界で工事遅延が多発している真の原因
• 談合問題が現場に与えている具体的な影響
• 職人不足・高齢化の実態と今後の見通し
• 工事遅延を避けるための発注者側の実践的対策
• 信頼できる業者を見分けるための具体的指標
本記事では、改修工事に携わる施工管理の視点から、工事が遅れる本当の理由と、発注者として今すぐ実践できる対策を、具体的なデータと現場経験を交えて詳しく解説いたします。
2025年建設業界の構造的危機:数字で見る深刻度
まず、現在の建設業界が直面している問題の規模を、客観的なデータで確認しましょう。
工事遅延の実態調査
工事規模 | 予定通り完了 | 1ヶ月以内の遅延 | 2ヶ月以上の遅延 | 主な遅延理由 |
---|---|---|---|---|
小規模(~500万円) | 45% | 35% | 20% | 職人確保困難 |
中規模(500~2000万円) | 35% | 40% | 25% | 専門業者不足 |
大規模(2000万円~) | 25% | 45% | 30% | 談合問題・管理体制 |
建設業界全体では、約75%の工事で何らかの遅延が発生しており、特に大規模工事では予定通り完了するケースが4分の1程度まで減少しています。
現場で実際に起きている問題
若手が少ない──高齢化が進む建設業界
国土交通省のデータによると、建設技能者のうち55歳以上が約35%、29歳以下はわずか11%(2023年時点)。
年齢構成別の深刻度分析
年齢層 | 全体に占める割合 | 技術継承の課題 | 今後10年の見通し |
---|---|---|---|
29歳以下 | 11% | 基礎技術の習得段階 | 即戦力化に5年必要 |
30~54歳 | 54% | 中核労働力だが不足 | 現状維持が精一杯 |
55歳以上 | 35% | 熟練技術者だが引退間近 | 大量離職の可能性 |
50代後半〜70代だけで回している、専門の施工会社(塗装屋・防水屋・タイル屋など)が多数あります。現場では「あと何年できるか…」と嘆く声が日常的に聞かれます。
知り合いの塗装屋さんは、70歳の職人さんを久しぶりに現場に応援に呼んだら、自分より技術もスピードも上で、「こんな人、本当に日本の宝ですよ」と言ってました。
専門工種別の人材不足状況
専門工種 | 不足度 | 平均年齢 | 新規参入率 | 影響度 |
---|---|---|---|---|
左官・塗装 | ★★★★★ | 58歳 | 2% | 工期大幅遅延 |
防水・屋根 | ★★★★★ | 56歳 | 3% | 品質低下リスク |
タイル・石工 | ★★★★☆ | 54歳 | 4% | 仕上がり格差 |
電気・管工事 | ★★★☆☆ | 48歳 | 8% | 技術革新対応 |
大工・建築 | ★★★★☆ | 52歳 | 5% | 構造品質への影響 |
大規模修繕の”談合ショック”が現場に波及
さらに2024年以降、大規模修繕工事をめぐる談合事件が相次ぎ、公正取引委員会が調査を進めています。
下記のような報道も影響し、大手の改修業者が新規案件の受注を見送る動きが広がっています:
談合問題の業界への具体的影響
大手建設会社の対応状況:
- 新規受注の一時停止:コンプライアンス体制見直しのため
- 既存案件の工程見直し:社内調査により人員配置変更
- 下請け業者との契約見直し:透明性確保のための契約条件変更
- 価格競争の激化:談合なしの適正競争による価格下落
市場全体への波及効果:
影響範囲 | 具体的な変化 | 影響期間の見込み | 対策状況 |
---|---|---|---|
大手ゼネコン | 改修部門の受注停止・縮小 | 1~2年 | コンプライアンス体制強化 |
中堅業者 | 受注機会増加も体制不足 | 6ヶ月~1年 | 人員・設備の拡張検討 |
専門工事業者 | 発注元の変更・工程変更 | 継続中 | 新規取引先開拓 |
施主・発注者 | 工期遅延・業者選択困難 | 1~3年 | 発注戦略の見直し |
「信用第一」の業界では、内部調査や社内体制の見直しが優先され、新規の動きが止まっている状況です。
AIでは代替できない”手の技術”
BIM・ドローン・自動化技術の導入は進んでいますが、現場では今なお”人の手”による判断と技能が不可欠です。
デジタル化の限界と人材依存度
作業分野 | AI・機械化の進度 | 人材依存度 | 技術継承の難易度 |
---|---|---|---|
設計・図面作成 | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ |
測量・調査 | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ |
外壁塗装・左官 | ★☆☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
防水処理 | ★☆☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
内装仕上げ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
設備工事 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
人の手に依存する高度技能:
- 外壁塗装や左官、防水処理などの細かな作業
- 建物ごとの形状や素材に応じた仕上げ
- 現場判断を伴う品質調整
- 経験と勘に基づく問題解決
AIが普及する時代に、逆に「人が足りない」という皮肉な状況が起きています。どんなに材料が良くなっても、施工する人がいなければ意味がありません。
材料が届いても、人がいないと始まらない
「材料は届いたのに工事が始まらない」──そんな現場が増えています。
資材調達vs人材確保の現状比較
調達項目 | 調達期間 | 安定性 | 代替可能性 | コスト変動 |
---|---|---|---|---|
一般建材 | 1~2週間 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ±10~20% |
特殊建材 | 3~4週間 | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ±20~30% |
一般職人 | 2~8週間 | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ±30~50% |
専門職人 | 4~12週間 | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ±50~100% |
下請け職人のスケジュールが埋まっていて、「2週間後でないと着工できない」、「他の現場が優先された」などの理由で、施主側の工程まで遅れる事態が多発。
典型的な遅延パターン:
- 材料調達完了(予定通り)
- 職人確保で2週間遅延
- 前工程の遅れで更に1週間遅延
- 天候・その他要因で追加遅延
- 結果:1~2ヶ月の工期延長
結果的に、引き渡しが遅延し、信頼性を損なうリスクが生まれています。
2025年に信頼される会社の特徴とは
“職人を確保できる会社”が選ばれる理由
今後は「どの会社に依頼するか」よりも、「誰と組んで仕事をしているか」が重要視される時代です。
職人確保力による業者分類
業者タイプ | 職人確保力 | 工期安定性 | 品質一貫性 | 価格競争力 |
---|---|---|---|---|
自社職人中心型 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
固定協力業者型 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
案件別調達型 | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ |
ブローカー型 | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★★★★☆ |
特に中小の地域密着業者は、長年の信頼関係で職人との連携を維持しており、大手が動けない今こそ頼りになる存在といえるでしょう。
地域密着業者の強みと信頼性
大手業者が職人手配に苦戦する中、地域密着の工務店や施工業者は地元の職人ネットワークを活かして、安定した人材確保を実現しているケースがあります。普段から顔の見える関係性があることで、急な対応やトラブル時の対応力にも差が出ます。
地域密着業者の具体的なメリット
人的ネットワークの優位性:
- 職人との長期継続関係:10年以上の協力関係を維持
- 緊急時の対応力:トラブル時に即座に応援要請可能
- 技術レベルの把握:各職人の得意分野・技術レベルを熟知
- 品質の一貫性:同じ職人チームでの継続施工
地域特性への対応力:
- 気候・風土の理解:地域特有の施工ノウハウ蓄積
- 法規制・慣習への精通:地域の建築基準・慣行の理解
- 材料調達の効率性:地域の資材店との関係構築
- アフターフォローの確実性:地域責任としての継続対応
また、地域での評判が次の仕事に直結するため、誠実な施工や丁寧な対応を徹底している業者が多いのも特徴です。「信頼できる施工会社を見つけたい」と考えるなら、地元業者の実績や口コミを重視するのも一つの選択肢です。
業者規模別の特徴比較
業者規模 | メリット | デメリット | 適用工事 |
---|---|---|---|
大手ゼネコン | 施工管理力・資金力・技術力 | 談合問題・高コスト・小回り× | 大規模・複雑工事 |
中堅建設会社 | バランス・実績・安定性 | 専門性・人材確保力 | 中規模工事全般 |
地域密着業者 | 人材確保・機動力・地域密着 | 施工管理力・技術力・資金力 | 小中規模・地域工事 |
専門工事業者 | 専門技術・コスト・スピード | 総合管理力・信用力 | 特定専門工事 |
施主ができる5つの実践的対策
① 依頼は早めに:戦略的な工程計画
季節別の発注戦略:
発注時期 | 工事実施時期 | 職人確保難易度 | 推奨事前期間 |
---|---|---|---|
12~2月 | 春工事(3~5月) | ★★★★★ | 3~4ヶ月前 |
6~8月 | 秋工事(9~11月) | ★★★★★ | 3~4ヶ月前 |
3~5月 | 夏工事(6~8月) | ★★☆☆☆ | 1~2ヶ月前 |
9~11月 | 冬工事(12~2月) | ★★☆☆☆ | 1~2ヶ月前 |
特に春・秋の繁忙期は2〜3ヶ月前に動くのがベスト。
② 見積もりだけでなく「施工体制」も聞く
どんな職人チームで行うか、説明を求める。
□ 主要職人の経験年数・資格保有状況
□ 自社職人と外注職人の比率
□ 過去の協力実績・継続年数
□ 現場代理人・監督者の配置計画
□ 緊急時・トラブル時の応援体制
□ 品質管理・安全管理の具体的方法
□ 他現場との工程調整方法
③ 地元の実績ある業者を選ぶ
大手が止まっている今、地域密着型が強い。
地域業者選定の具体的方法:
- 地域での施工実績確認:近隣の工事事例・完成物件見学
- 口コミ・評判の収集:複数ルートからの情報収集
- 協力業者ネットワーク調査:職人・専門業者との関係性
- アフターフォロー実績:過去の対応事例・継続性
④ 企業の公開情報を探す
資本金やメイン取引先、口コミなんかも参考になる。
調査すべき企業情報:
調査項目 | 確認方法 | 判断基準 |
---|---|---|
基本情報 | 法人登記・HP・パンフレット | 設立年数・資本金・従業員数 |
財務状況 | 帝国データバンク・官報 | 売上高・利益率・借入状況 |
施工実績 | 施工事例・顧客リスト | 工事規模・実績件数・完成度 |
資格・許可 | 建設業許可証・資格証明書 | 許可業種・技術者資格・更新状況 |
評判・口コミ | Google・専門サイト・紹介 | 総合評価・具体的コメント内容 |
⑤ 契約条件の明確化と柔軟性確保
新たに重要となる契約上の配慮事項:
- 工期変更時の対応ルール:遅延理由別の責任分担
- 職人変更時の品質保証:代替職人の技術レベル保証
- 中間検査・確認ポイント:工程進捗の定期報告
- 追加費用の上限設定:予期せぬ費用増加の抑制
価格や知名度だけでなく、「誰が、どのように工事するのか」が見える会社を選びましょう。
工事遅延を防ぐ発注戦略とリスク管理
リスク分散型の発注方法
大規模工事の場合の分割発注戦略:
工事分割方法 | メリット | デメリット | 適用条件 |
---|---|---|---|
工程別分割 | 専門業者直接発注・コスト削減 | 調整業務増・責任分散 | 施主に工程管理能力あり |
部位別分割 | リスク分散・工期短縮可能 | 取り合い調整困難 | 独立性の高い工事部位 |
段階別分割 | 状況に応じた柔軟対応 | 全体最適化困難 | 不確定要素が多い場合 |
一括発注 | 責任明確・管理効率 | 業者依存・リスク集中 | 信頼できる業者確保時 |
契約時に盛り込むべき遅延対策条項
効果的な契約条項例:
• 職人確保困難時の代替案提示義務
• 工程遅延時の週次報告制度
• 遅延理由別の責任分担明確化
• 第三者機関による工程管理導入
• 遅延ペナルティと早期完成インセンティブ
業界構造変化に対応した長期戦略
2025年以降の建設業界予測
短期的変化(1~2年):
- 談合問題の収束:新しい競争ルールの確立
- 中小業者の成長:大手の隙間を埋める存在として
- 価格競争の激化:適正競争による価格正常化
- 品質格差の拡大:技術力による明確な差別化
中長期的変化(3~5年):
- デジタル化の加速:AI・IoT技術の現場導入拡大
- 職人教育システム確立:技術継承の仕組み構築
- 外国人労働者の増加:国際化への対応必要
- サステナビリティ重視:環境配慮型工法の普及
施主側の対応戦略
今すぐ実践すべき対策:
- 情報収集能力の向上:業界動向・技術トレンドの把握
- 複数業者との関係構築:リスク分散と比較検討
- 長期メンテナンス計画:予防保全による工事分散
- 品質基準の明確化:求める水準と許容範囲の設定
成功事例:遅延を回避した発注者の取り組み
事例1:戦略的早期発注による成功
案件概要:築20年マンション外壁改修(30戸・工事費2,500万円)
成功要因:
- 1年前からの業者選定開始:談合問題発生前に契約完了
- 地域密着業者の選択:職人確保力を最重視
- 工程の柔軟性確保:天候・職人都合による調整余地
- 定期的な進捗確認:月次・週次の詳細報告制度
結果:予定より1週間早い完成、品質も満足水準を達成
事例2:複数業者分割発注による成功
案件概要:戸建て住宅全面リフォーム(工事費1,800万円)
成功要因:
- 専門工事別の直接発注:電気・水道・内装を分離
- 工程管理の専門家活用:第三者による調整
- 職人の技術レベル事前確認:過去作品の現地確認
- 緊急時対応体制構築:代替職人の事前確保
結果:各工程での品質向上、総工期の短縮を実現
まとめ:「人と透明性」が未来の信頼につながる
工事の品質と納期を支えるのは、最終的に人材力と制度の透明性です。
AI化が進む一方、熟練職人の技術は依然として必要。加えて、談合問題を受けて業者選びの透明性が問われる時代でもあります。
□ 早期発注による職人確保の優先
□ 施工体制の透明性と技術力の事前確認
□ 地域密着業者の活用と長期関係構築
□ 契約条件の詳細化とリスク分散
□ 工程管理の強化と定期的な進捗確認
□ 業界動向への継続的な注意と対応
□ 品質重視の発注姿勢と適正価格の理解
重要な考え方の転換:
- 価格最優先から品質・信頼性重視へ
- 短期的効率から長期的関係構築へ
- 業者任せから施主主導の工程管理へ
- 画一的発注から個別最適化戦略へ
“信頼できる人と、信頼できる制度”を持つ会社こそが、これからの改修・修繕工事で選ばれる存在になるでしょう。
2025年の建設業界は大きな転換点にあります。談合問題による業界構造の変化、職人不足の深刻化、デジタル化の進展など、様々な要因が複雑に絡み合っています。
しかし、これらの変化を正しく理解し、適切な対策を講じることで、質の高い工事を適正な工期で実現することは十分可能です。重要なのは、従来の常識にとらわれず、新しい時代に適応した発注戦略を構築することです。
施主として最も大切なのは、「安かろう悪かろう」ではなく、「適正価格で確実な品質」を求める姿勢です。優秀な職人と信頼できる業者との長期的な関係構築こそが、これからの建設工事成功の鍵となるでしょう。