2025年の建設工事が遅れる理由とは?職人不足と資材高騰の影響

- 2025年建設業界で工事遅延が多発している真の原因
- 談合問題が現場に与えている具体的な影響
- 職人不足・高齢化の実態と今後の見通し
- 工事遅延を避けるための発注者側の実践的対策
- 信頼できる業者を見分けるための具体的指標
まことしやかに噂されていた、「2025年問題」。団塊の世代が後期高齢者である75歳を迎えることを言うのですが、建設業界には大きな影響が出ると言われていました。
テレビや新聞では「職人不足」「資材高騰」といった表面的な理由ばかりが取り上げられがちですが、現場で働く私たちが感じているのは、もっと根深い構造的な問題です。改修工事施工管理として5年以上現場に携わってきた中で、2024年後半から業界全体が大きく変わってしまったと実感しています。
特に大きな影響を与えているのが談合問題です。信頼していた大手企業の不祥事により、業界全体の信頼が揺らぎ、仕事の流れそのものが変化しています。そして何より深刻なのが、技術を持った職人さんの高齢化と後継者不足です。
この記事では、現場で実際に起きていることをお伝えしながら、お客様が安心して工事を依頼するために知っておくべきことを、具体的な事例とともに詳しく解説します。
70歳の親方が現場に出続ける理由

先日、お世話になっている左官屋さんの親方と話す機会がありました。その方は今年で70歳。本来ならとっくに引退してもおかしくない年齢です。
「正直、もう体がきついんだよ」と言いながら、それでも現場に出続けている。理由を聞いたら、「後継ぎがいないから。うちの技術を受け継げる若い子がいないんだ」と寂しそうに笑っていました。
その親方のコテさばきは本当に芸術的なんです。壁を撫でるように仕上げていく手つきは、何十年もの経験がないとできない技術。でも、その技術を教える相手がいない。若い人は建設業に入ってこないし、入ってきても左官みたいな「きつい・汚い・危険」な仕事は敬遠される。
「あと何年続けられるかな」という親方の言葉が、今でも耳に残っています。この親方が引退したら、その技術は永遠に失われてしまう。それが日本中の現場で起きているんです。
建設業界の高齢化は想像以上に深刻です。国土交通省の建設業就業者数の推移を見ると、建設技能者のうち55歳以上が約35%、29歳以下はわずか11%(2023年時点)となっています。
特に専門技術が必要な塗装・防水・左官工事では、60代、70代の職人さんに頼っているのが現状。彼らが持っている技術や経験は本当に貴重で、「日本の財産」と言っても過言ではありません。
私も手先は器用な方なのですが、絶妙なコテの角度や力加減、手先の感覚、気温や湿度を見ながらの粘度調整など、左官工事一つ見ても、見よう見まねでできるような単純な作業ではないことが分かります。
左官・塗装工事は高齢化が最も進行していて、新規参入が極めて困難。防水・屋根工事は専門技術の習得に長期間要して、後継者不足。タイル・石工事は熟練技術者の引退により技術継承が困難になっています。電気・管工事は資格取得者不足と技術革新への対応遅れ。大工・建築工事は若手の参入減少と技術レベルの格差が広がっています。
実際の現場では、「この技術を知っているのはこの人だけ」という状況がよくあります。その職人さんが体調を崩されたり、引退されたりすると、同レベルの技術を持つ代替の方を見つけるのは本当に困難です。
談合問題で元請けが消えた日
2024年後半から表面化した大規模修繕工事の談合問題は、業界に大きな衝撃を与えました。多くの大手建設会社が新規案件の受注を見送る状況が続いています。
私たちの現場でも、いつも仕事をいただいていた大手の元請け会社から「しばらく新しい仕事は受けていません」と連絡を受けました。急遽別の元請け業者を探さなければならないケースが複数回ありました。
正直なところ、困りました。長年一緒に仕事をしてきた元請けとは、お互いのやり方や基準が分かっている。でも新しい元請けだと、イチから関係を築かないといけない。品質基準も違うし、提出書類のフォーマットも違う。現場のルールも違う。
ある現場では、新しい元請けの品質基準が甘すぎて、「これで本当にいいんですか?」と何度も確認したことがあります。逆に、別の現場では基準が厳しすぎて、必要のない書類作成に時間を取られたこともありました。
この業界では「信用」が何より大切です。長年培ってきた信頼関係が一度崩れると、元に戻すのに何年もかかります。だからこそ、大手各社も慎重にならざるを得ないのが現状です。
大手ゼネコンは、改修部門の受注停止・縮小で、影響期間は1〜2年と見込まれています。コンプライアンス体制強化が進められている状況。中堅業者は受注機会が増加したけど、体制が不足していて、6ヶ月〜1年の影響期間。人員・設備の拡張を検討中です。
専門工事業者は、発注元の変更・工程変更が継続中で、新規取引先開拓が課題。施主・発注者は工期遅延・業者選択が困難になっていて、1〜3年の影響期間が予想され、発注戦略の見直しが進められています。
デジタル化しても「人の手」は消えない
最近、BIMやドローン、AIを使った自動化技術の導入が進んでいます。国土交通省のi-Construction政策により、確かに測量や設計の効率は上がりました。
でも現場では今でも、職人さんの「手の技術」と「経験による判断」が欠かせません。特に改修工事では、建物ごとに状況が全く違うため、マニュアル通りにはいかないことばかりです。
先日、築30年のマンションの外壁改修で、図面通りに工事を進めようとしたら、実際の壁の状況が図面と全く違っていました。図面では「コンクリート壁」となっていたのに、実際には「コンクリートブロック+モルタル仕上げ」だったんです。
こんな時に頼りになるのは、長年の経験を持つ職人さんの判断力。その場で壁を叩いて音を聞き、「ここはブロックだな。じゃあこの材料じゃダメだ、こっちを使おう」と即座に判断してくれました。AIにはこんな臨機応変な対応はできません。
設計・図面作成はデジタル化が進んでいますが、外壁塗装・左官、防水処理、内装仕上げなどは、今でも人材依存度が非常に高い。技術継承の難易度も高く、デジタル化だけでは解決できない分野なんです。
AIが普及する時代だからこそ、逆に「人にしかできないこと」の価値が高まっていると感じています。どんなに良い材料や機械があっても、最終的にそれを使いこなすのは人間だからです。
材料は届いても工事が始まらない理由
「材料は届いているのに、なぜ工事が始まらないんですか?」──お客様からこんな質問をいただくこともあります。
確かに、建設物価調査会のデータを見ると、資材価格は高騰しています。でも、問題はその材料を使って工事をする「人」の確保なんです。
ある現場では、外壁塗装の材料が予定通り届きました。でも、信頼できる塗装職人の空きがなくて2週間待ち。その職人が前の現場で予定外のトラブルが発生して、さらに1週間遅延。やっと工事が始まったと思ったら、天候不良で追加の遅延発生。結果として、当初予定より1〜2ヶ月の工期延長になってしまいました。
一般建材は1〜2週間で調達できますが、専門職人は2〜8週間かかります。特殊建材は3〜4週間ですが、専門職人は4〜12週間もかかることがある。しかも、専門職人は代替がほとんど効かないんです。
特に専門性の高い防水工事や塗装工事では、「この人でないとお任せできない」というケースが多く、その職人さんの都合で工程が決まってしまうことも珍しくありません。まあ、そこを調整するのが私のような施工管理者の仕事ではあるのですが。
「職人を抱えているか」が業者選びの鍵

今の時代、業者選びで最も重要なのは「どんな職人さんと組んで仕事をしているか」です。価格や会社の規模よりも、実際に工事をする人たちの技術力と確保状況を重視すべきだと思います。
私が現場で見てきた限り、自社で職人を抱えているか、長年固定の協力業者と組んでいる会社は、やはり安定した品質と工期で仕事をこなしています。一方で、案件ごとに職人を探している会社は、どうしても安定性に欠けるのが現状です。
自社職人中心型の業者は、職人確保力が高く、工期も安定しています。品質も一貫していますが、価格競争力はそれほど高くありません。固定協力業者型は、バランスが取れていて、多くの現場で使われています。案件別調達型は価格が安いですが、品質や工期の安定性に欠けます。ブローカー型は、正直なところ避けた方が無難です。
ちょっと脱線はしますが、一方的に業者へ仕事を丸投げしている元請けは、工程管理も安全管理も品質管理もめちゃくちゃだったりします(愚痴)。
地域密着業者の「顔の見える関係」
大手が談合問題で動けない今、意外に頼りになるのが地域密着の工務店や施工業者です。彼らは地元の職人ネットワークを活用し、「顔の見える関係」で安定した人材確保を実現しています。
実際に私が協力している地元の塗装業者さんは、「○○さんの仕事なら」と言って、忙しい時でも職人さんが協力してくれるんです。これは長年の信頼関係があるからこその強みだと思います。
職人との長期継続関係では、10年以上の協力関係を維持している場合が多い。緊急時の対応力も高く、トラブル時に即座に応援要請ができます。技術レベルの把握もしっかりしていて、各職人の得意分野・技術レベルを熟知しています。品質の一貫性も、同じ職人チームでの継続施工により保たれています。
気候・風土の理解では、地域特有の施工ノウハウが蓄積されている。法規制・慣習への精通、材料調達の効率性、アフターフォローの確実性。これらは地域業者ならではの強みです。
地域業者の最大の強みは、「逃げられない」ことです。地元での評判が次の仕事に直結するため、手抜き工事はできません。この地域責任感は、大手にはない大きな安心材料だと思います。
お客様ができる5つの実践的対策
①とにかく早めの相談
「思い立ったらすぐ」ではなく、余裕を持った計画が成功の鍵です。特に人気の職人さんは、数ヶ月先まで予定が埋まっていることも珍しくありません。
特に外壁塗装や防水工事は天候に左右されやすいため、春と秋の需要が集中します。この時期の工事をお考えの場合は、2〜3ヶ月前には相談を始めることをおすすめします。
春工事(3〜5月)なら、12〜2月の発注で3〜4ヶ月前から準備を。秋工事(9〜11月)なら、6〜8月の発注で3〜4ヶ月前から。夏工事(6〜8月)は比較的職人確保がしやすく、1〜2ヶ月前でも大丈夫な場合があります。冬工事(12〜2月)も同様に、1〜2ヶ月前から準備すれば間に合うことが多いです。
②見積もり以上に「誰が工事するか」を重視
価格だけでなく、実際に現場で作業する職人さんについて詳しく聞くことが大切です。
主要職人の経験年数・保有資格、自社職人と外注職人の比率、過去の協力実績・継続年数、現場代理人・監督者の経歴、緊急時・トラブル時の応援体制、品質管理・安全管理の具体的方法、他現場との工程調整能力。これらを確認してください。
良心的な業者であれば、職人さんの経歴や得意分野について詳しく説明してくれるはずです。「企業秘密」として詳細を教えてくれない業者は、少し注意した方が良いかもしれません。
③地元業者の実績を必ず確認
大手ブランドに頼れない今だからこそ、地域での実績と評判を重視しましょう。
近隣の施工実績を確認して、実際に完成した建物を見せてもらいましょう。複数ルートでの口コミ収集も大切。不動産会社・工務店・近隣住民から情報を集めてください。協力業者ネットワークの調査で、職人・専門業者との関係の深さを確認。アフターフォロー実績として、完成後の対応事例・継続性をチェックしましょう。
④会社情報の徹底調査
インターネットが普及した今、業者の基本情報は事前に詳しく調べることができます。建設業許可業者検索システムで許可状況を確認するのも重要です。
基本情報は、法人登記・HP・パンフレットで確認。設立年数・資本金・従業員数をチェックしてください。建設業許可は、許可業者検索システムで、許可業種・更新状況・処分歴を確認。施工実績は、施工事例・顧客リストで、工事規模・実績件数・完成度を見ましょう。資格・技術者は、技術者名簿・資格証明書で、有資格者数・専任技術者配置を確認。評判・口コミは、Google・専門サイト・紹介で、総合評価・具体的コメント内容をチェックしてください。
⑤契約書の詳細化とリスク対策
現在の建設業界の状況を踏まえ、契約書により詳細な条件を盛り込むことが重要です。
工期変更時の対応ルールとして、遅延理由別の責任分担を明記。職人変更時の品質保証では、代替職人の技術レベル保証を確認。中間検査・確認ポイントでは、工程進捗の定期報告制度を設定。追加費用の上限設定で、予期せぬ費用増加を抑制しましょう。
「値段が安いから」「大手だから」という理由だけでなく、「この人たちになら安心して任せられる」という人間関係を重視して業者選びをすることが、今の時代には最も大切だと思います。
2ヶ月早く相談して良かった事例
ある築25年のマンション(40戸)の外壁改修工事、工事費3,200万円の案件がありました。
管理組合の理事長さんが、1年前から相談に来てくれたんです。「2025年問題があるから、早めに動いた方がいいと聞いて」と。正直なところ、その時はまだ談合問題が表面化する前でした。
理事長さんと一緒に、地域で30年の実績を持つ専門業者を探しました。何社か見積もりを取って、最終的に決めた業者は、自社職人を10名抱えている会社。価格は中間くらいだったけど、職人さんの技術力と人柄に惹かれました。
天候や職人の都合を考慮した余裕のある工程を組んで、月2回の定例会議で進捗を確認。何度か小さなトラブルはあったけど、すぐに対応してくれて、結果的に予定より1週間早く完成しました。住民満足度アンケートでは95%以上の方が「満足」と回答してくれて、理事長さんも喜んでいました。
「早めに動いて本当に良かった」と理事長さん。もし半年遅かったら、談合問題で業者選びが難航していたかもしれません。
まとめ:2025年問題を乗り越える「新しい建設業」への転換
建設業界は今、戦後最大とも言える変革期にあります。2025年問題による熟練職人の大量退職、働き方改革による工程制約、談合問題による業界構造の変化──これらすべてが同時に進行する中で、従来のやり方では通用しない時代が始まっています。
しかし、これらの課題を正しく理解し、適切な対策を講じることで、より透明で効率的な建設業界を築くことは十分可能です。危機は同時に機会でもあります。
現場で5年以上働いてきて強く感じるのは、建設業界の本質は「人と人との信頼関係」にあるということです。どんなにAIやロボットが発達しても、最終的に建物を作り上げるのは人間の手と心です。
「安い・早い」から「持続可能・高品質」へ。「職人依存」から「技術継承・システム化」へ。「アナログ作業」から「デジタル活用」へ。「多重請負」から「直接契約・適正報酬」へ。こういった視点の転換が求められています。
私自身も施工管理者として、ITスキルを活かした現場改善や、若手職人の教育に積極的に取り組んでいます。一人ひとりができることは小さくても、業界全体で取り組めば大きな変化を起こせると信じています。
技術継承への貢献として、ベテランと若手が協働できる工事環境を支援すること。働き方改革への理解で、適正な工期と労働環境を確保すること。デジタル化への協力で、効率的な情報共有と記録管理を進めること。品質重視の姿勢で、目先の安さより長期的な価値を重視すること。これらがお客様に求められる新しい発注スタイルです。
2025年問題は確かに深刻な課題ですが、同時に建設業界が生まれ変わる絶好の機会でもあります。透明性の高い競争、技術継承の体系化、デジタル技術の活用、働く人の環境改善──これらすべてが進むことで、より良い建設工事が当たり前になる時代がやってくるはずです。
お客様には、業界の現状と課題をご理解いただいた上で、「この人たちと一緒に良いものを作りたい」と思える業者を選んでいただきたいと思います。価格や工期だけでなく、技術力、人間性、そして何より「未来への責任感」を持った業者との出会いこそが、満足度の高い工事を実現する最も確実な道だと確信しています。
建設業界の変革期だからこそ、お客様と業者が協力して、持続可能で高品質な建設工事の新しいスタンダードを一緒に作り上げていきませんか。