なぜ大規模修繕の設計監理費は安い?建築士の報酬と談合構造の裏側

- 大規模修繕で談合が起こる具体的な構造と金額規模
- 建築士がなぜ中立性を失うリスクがあるのか
- バックマージンの実態と年間数千万円規模の被害
- 住民ができる具体的な談合対策と成功事例
- 透明性の高い修繕工事を実現する完全ガイド
なぜ大規模修繕は「異常に高額」になってしまうのか
改修工事の施工管理をしてきた経験から見えてきたのは、マンションの大規模修繕における費用構造の複雑さです。
数千万円規模の見積が提示された際、多くの住民の方が
「相場がわからない」
「適正価格がどの程度なのか判断できない」
と悩まれている現状があります。
現場で働く中で感じるのは、見積内容の詳細な説明が不足していたり、複数業者による真の競争入札が行われていないケースが少なくないということ。
住民の皆さんが適切な判断をするために必要な情報が十分に提供されていない場合があるんです。
毎週顔を合わせる関係が生む「馴れ合い」

大規模修繕工事では、複数の関係者が関わることで様々な利害関係が生まれ、時として不適切な談合が発生する可能性があります。
大規模修繕で起こる談合の3つの類型
| 談合の類型 | 関係者 | 手口 | 深刻度 |
|---|---|---|---|
| 管理組合と施工会社 | 理事・修繕委員 ⇔ 施工業者 | 金銭的利益や便宜を受ける代わりに、特定業者を有利にする | ★★☆ |
| 管理組合と工事監理者 | 理事・修繕委員 ⇔ 建築士事務所 | 工事費用を水増しして利益を分配する | ★★☆ |
| 施工会社と工事監理者 | 施工業者 ⇔ 建築士事務所 | 本来監視すべき建築士が施工業者と癒着する | ★★★ |
最も深刻なのは「施工会社と工事監理者」の癒着です。
なぜなら、建築士は本来、住民の代理人として施工業者を監視する立場だから。
その監視役が施工業者側に回ってしまうと、住民を守る人がいなくなってしまうんです。
建築士が抱える利益相反構造
一級建築士事務所の工事監理の本来の役割は、住民(管理組合)の代理人として公正中立な立場で業務を行うこと。具体的には以下の3つです:
- 適正な工事仕様の策定
- 施工業者の選定支援
- 工事期間中の品質監理
しかし、一級建築士事務所は設計・監理業務で数百万円の報酬を得る一方で、
施工業者からも「協力金」や「設計変更手数料」名目で金銭を受け取っている会社があるということを
この仕事をしているとよく耳にします。
これが大きな利益相反構造になる分けです。
住民から報酬 → 数百万円
施工業者から「協力金」 → 工事費の1〜3%(数百万円)
本来住民の味方であるべき建築士が、施工業者寄りの判断をしてしまう構造が生まれます。
▶ 参考:国土交通省|マンションの管理の適正化の推進に関する法律
週1回の現場巡回が「協力者」に変える

マンション修繕工事では、設計・監理を担う建築士が管理組合の代理として業務を行います。
でも、実際の現場では密接な関係が築かれていくんです。
週1〜2回の現場巡回で工事の進捗確認と品質チェック。
月1〜2回の定例会議に理事会・管理会社・施工会社・建築士が参加。
日常的な工程調整で、住民の生活に配慮した施工計画の変更。
クレーム対応では、住民からの苦情に対する共同対処。
居住中施工という特殊な環境では、建築士と施工会社が「チーム」として動かざるを得ません。
この過程で、本来の「監視役」から「協力者」へと関係性が変化してしまうんです。
「設計協力費」という名の現金授受
施工管理の仕事をしていてよく聞く手口として、様々な名目での金銭授受についてです。
「設計協力費」として工事費の数%を現金で授受したり、
「技術指導料」名目で別契約を締結したり、
「紹介手数料」として他案件での後払いをしたり。
代表者の個人口座への分割振込や、高級接待や海外旅行での利益供与もあります。
2024年3月に発覚した大規模修繕談合事件では、数十年前から複数の現場で工事料金の5%〜15%がバックマージンとして流れていたと言われています。
報酬基準5%の裏に潜む構造的問題
国土交通省の建築士業務報酬基準では、設計・監理業務に対する適正な報酬として、工事費の約5%(設計3% + 監理2%)が示されています。
実際の契約でも、5〜10%程度で契約されているのが一般的です。
例えば、工事費1億円のマンション大規模修繕の場合、設計監理費は約500万円(5%)。一見すると大きな金額に見えます。
しかし、一級建築士という難関資格を取得しても、実際に支払われる報酬は決して多くありません。
工事費1億円 → 設計監理費500万円(5%)
工期: 約半年
業務内容:
・週1回の現場確認(往復時間含め半日)
・事務所での書類作成・施工管理者の報告書確認
・事務員の人件費
・交通費・諸経費
→ 実際の利益は50〜100万円程度
一方で、元請の施工会社は1億円の工事で15〜20%(1,500〜2,000万円)ほどの利益を得ます。
業務量の差はあるものの、利益率では圧倒的に施工会社が有利です。
ここに談合の構造が生まれます。
元請にとって、「仕事をしやすいように設計を抱き込む」形で
工事費の数%(100〜300万円)のバックマージンを渡しても、
1,500万円以上の利益から考えれば痛くない金額です。
建築士側も、正規の報酬500万円に加えて、別途バックマージン200万円を受け取れば、合計700万円。
大幅に収入が増えます。
私が現場で見てきた中でも、「この建築士、施工会社に甘すぎないか?」と感じるケースがありました。
後で聞いた話では、やはり裏で金銭授受があったそうです。
この経済構造が、建築士事務所を施工業者からの金銭的利益に依存させる根本原因となっています。
建築士法には「倫理規定」の条文はありませんが、日本建築士会連合会や日本建築家協会などの団体が、建築士が遵守すべき倫理規定を定めています。
しかし、正規報酬だけでは十分な利益を得られない建築士事務所が、施工業者からの「設計変更協力費」や「技術指導料」といった名目の金銭に頼らざるを得ない実態があります。
この構造的問題は、建築士事務所個社の努力だけでは解決困難です。
管理組合側も、極端に安い設計・監理費用が結果として工事品質の低下や談合リスクを高める可能性があることを理解する必要があります。
住民ができる具体的な談合対策

談合を防ぐために、住民側が実行できる具体的な対策をご紹介します。
業者選定時のチェックポイントと、監視システムの構築が鍵になります。
設計事務所・施工会社選定時のチェックポイント
| 選定段階 | 確認すべき項目 | 重要度 |
|---|---|---|
| 設計事務所選定時 | マンション修繕の実績件数と具体的な事例 | ★★★ |
| 施工会社との資本関係・役員関係の有無 | ★★★ | |
| 過去5年間の主な取引先施工会社 | ★★★ | |
| 建築士会での評判・懲戒処分歴の確認 | ★★☆ | |
| 施工会社選定時 | 見積書の全項目詳細と単価根拠の確認 | ★★★ |
| 類似工事での施工実績と品質評価 | ★★★ | |
| 下請業者の選定基準と管理体制 | ★★☆ | |
| 工事保険・損害賠償保険の加入状況 | ★★☆ |
特に重要なのは、設計事務所と施工会社の過去の関係性です。
過去10件以上の共同受注実績がある場合は、癒着の可能性を疑ってください。
独立性が保たれているかどうかが、公正な修繕工事の第一歩になります。
住民主体の監視システム構築
| 対策 | 内容 | 費用目安 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 修繕委員会の設置 | 専門知識を持つ住民5〜7名で構成 | 無料 | ★★★ |
| 第三者監理の導入 | 独立した建築士による監理 | 工事費の1〜2% | ★★★ |
| 定期報告会の開催 | 月1回、工事進捗を住民に報告 | 会場費のみ | ★★☆ |
| 外部専門家の活用 | 建築士・弁護士による助言 | 相談料のみ | ★★☆ |
ここ最近では大規模修繕に関するセカンドオピニオンサービスを業務としている設計事務所も増えているため、不安のある管理組合の方は、多少費用がかかりますが活用してみるのも一つの手です。
情報の透明化で談合を防ぐ
談合防止には、情報の透明化と住民の積極的な参加が不可欠です。
見積書の完全公開で、全項目を住民説明会で詳細に説明する。
選定理由を文書化して、なぜその業者を選んだのかを明文化する。
打ち合わせ議事録を公開して、設計事務所・施工会社との全会議録を共有する。
こういった「見える化」の取り組みが、談合をしにくい環境を作ります。
2,400万円削減に成功した実例
私の知り合いが住む都内某マンション(築25年・100戸)で参考になる事例があったので、少し詳しくお話しします。
問題発覚のきっかけは、大規模修繕工事の当初見積が1億2,000万円という高額だったこと。
建築関係者の住民が疑問を提起し、管理会社推薦の設計事務所と施工会社の関係を調査したところ、過去10年間で20件以上の共同受注実績が判明しました。
実施した対策として、修繕委員会に建築士・施工管理技士の住民3名が参加。
設計事務所選定を公募制で実施して、8社が応募しました。
施工会社選定では5社による真の競争入札を実施。
外部の建築士による第三者監理を導入し、毎月の住民説明会で詳細な進捗報告を行いました。
結果は驚くべきものでした。
工事費は1億2,000万円から9,600万円へ、20%削減。
工期も10ヶ月から8ヶ月へ、2ヶ月短縮。
品質面でも仕様グレードアップを実現し、住民満足度は92%が「満足」と回答しました。
まとめ:住民の「知る権利」が透明性を生み出す
5年間現場で働いてきて、そして2024年の談合問題を目の当たりにして、改めて思うのは
「住民が声を上げなければ、何も変わらない」ということです。
専門知識がなくても大丈夫です。
「なぜこの金額なのか?」「なぜこの業者を選んだのか?」と質問するだけで、業者側の姿勢は変わります。
私自身、住民の方から鋭い質問を受けた時は、「しっかり説明しなければ」と襟を正す思いになります。
談合が起こる根本的な原因は「見えにくさ」「無関心」「専門家任せ」の三つです。
でも、住民が意識改革を行うことで、建築士も施工会社も健全な競争環境で業務を行うようになります。
国土交通省や業界団体による制度改善も期待されますが、最も確実で即効性があるのは住民の皆さん自身の行動です。「大規模修繕は専門家任せ」という従来の考え方から、「住民が主体となって考え、決定し、監視する工事」への意識転換が何より大事です。






